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3.マリウス様の姉

Author: 月山 歩
last update Huling Na-update: 2025-08-19 13:13:57

「サラ、入るわよ。」

私が相変わらず閉じこもっている部屋に、マリウス様のお姉様であるローサ・ギルフォード公爵夫人が顔をのぞかせた。

「ローサ様…。」

「久しぶりね。

すごいやつれようだわ。」

ローサ様はため息まじりにソファへ腰をおろし、痩せ細った私をじっと見つめる。

「そうですか?

自分ではよくわからなくて。」

「ここに案内したのも、チャベストだったのよ。

侍女達はあなたに近づきたくないとばかりに、誰しもがそっぽをむいていたわ。

ということは、彼女達にきちんと世話されていないのね?

侍女がそんな態度をするなんて、許されることではないわ。」

「皆さんはマリウス様を慕っておいでですから。」

「それはわかるけれども、あなたはこの邸の女主人よ。

こんな仕打ちを見過ごすことはできないわ。

サラを軽んじる者は全員解雇よ。」

「ローサ様、私のことでしたら、もういいんです。

マリウス様に相応しくないと思うのも当然ですし。」

「何弱気なことを言っているの?

あなたは不貞などしていない。

そうなんでしょ?」

「そう思うのですか?」

「当たり前でしょ。」

その瞬間、私の張り詰めていた思いが溢れ出し、こらえていた涙が、止めどなく頬を伝った。

「…やっと、私を信じてくれる人が…。」

押し殺していた涙が、再び溢れ出すのを感じた。

あれほど必死に訴えても誰一人として耳を傾けてくれず、やがて自分自身までもが疑わしく思えてくるほどだった。

もしかして、私は記憶喪失で、知らぬうちにそんなことをしてしまっていたのではないか。

そんな馬鹿げた思いすら、ふと胸をかすめていたのだ。

だからこそ、ただまっすぐに私を信じてくれる人の存在が、これほどまでに心強く、嬉しい。

「ごめんなさいね。

もっと早く来たかったのだけど、トラブルの中心にいるあなたに会うことを、夫がひどく心配していてね。

なかなかタイミングを掴めずにいたの。

でも私は、当初からあなたを信じていたのよ。

だってマリウスとサラは深く愛し合っていたでしょう?

その関係の中で不貞を働くなんて、到底信じられないわ。」

「そうなんです。

きっと私は、何かの罠にはまったんです。

どうしてかはわからないけれど、ホルダー侯爵様は、私のことをわかりすぎていて、お付き合いしていないのに、細部まで私を知っているなんて、不思議でなりません。」

「そうね。

きっとその裏に何かありそうだわ。

でも、気になるのなら、どうして調べようとしないの?」

「それが、マリウス様に外出を禁じられていて、自由に動けないんです。

それにホルダー侯爵夫人であるルヒィナ様が私の友人であったことから、友人達は私と仲良くすると、夫を奪われるかもしれないと警戒して、手紙で助けを求めても誰も協力してくれないんです。」

「なるほどね。」

「でも、もういいかと思い始めています。

マリウス様もお父様も、私に会おうとはしてくださらない。

たとえ話す機会があっても、証拠がある以上、きっと信じてもらえないでしょう。

マリウス様に離縁されたら、私は修道院に入るしか道はありませんし、だったらこのまま、会えなくても彼のそばにいたいと思うようになってしまって。」

「でも、あの男がサラと結婚したいと言っているんでしょ?」

「はい、そのように言われましたけれど、正直なところ、私はホルダー侯爵様が怖くて仕方がないんです。

平然と嘘を重ね、私を手に入れようとするような人なので。

その一方で、私の人生をめちゃくちゃにした張本人ですから、私は彼を憎んでいます。」

「そうよね。

そこまで聞いても、マリウスはあなたを信じようとしないの?」

「あの日以来、彼は一度も口をきいてくれません。」

「…そう、困った人ね。」

「話だけでも聞いてほしいと願っていたのですが、もうどうしようもないかと諦める気持ちもあって。」

「何言ってるの?

サラは悪くないんだから、正々堂々と戦わないと。」

「一人では、到底できそうにもなくて。」

「大丈夫よ。

私が力になるわ。

だから、諦めないで、いいわね。」

「はい。」

私は、ローサ様の温かな手を握り返す。

その瞬間、ようやく胸の奥で凍りついていた何かがそっと動き出し、再び戦う意欲を取り戻した。

「まずは、この邸の中から立て直しましょう。

あなた、食べ物すらろくに与えられていないのね。」

「はい、お食事がほんの少しになってしまって。」

「まったく、困ったものね。

人間、きちんと食べなければ、力なんて出るはずないわ。

今日はお腹いっぱいになるまで食べるのよ。

ちょっと待っていなさい。」

そう話すと、ローサ様は私を部屋に残し、足早に出ていかれた。

私はただ呆然と閉じたドアを見つめる。

そう言えば、最後に誰かとまともに話したのは、いつだっただろうか?

あまりにも長く人と言葉を交わさずにいたせいで、もうどうやって声を出せばいいのかさえ、わからなくなっていた。

さっき、ローサ様の前で泣いたときに、ようやく喉が動いた気がしたくらいだわ。

しばらくすると、ローサ様を筆頭にチャベストさんとモニカ達が料理を部屋に運んでくれた。

「さあ、遠慮せずに召し上がれ。」

優しくそう言われ、私はおそるおそるスプーンを手に取り、スープをひと匙すくって口に運ぶ。

魚介の旨みが効いた優しいスープの味にホッと溜息をつく。

温かいスープをいただくのは、いつぶりかしら?

胸の奥にじんわりと広がる満足感と一緒に、涙がこみ上げそうになるのをぐっと堪えながら、私は黙々と食事を進める。

私がスープやその他の料理をあらかた食べ終わると、ローサ様が皆を見回しながら、静かに口を開く。

「ハンプトン侯爵家ともあろうことが、女主人を蔑ろにするなんて、どういうこと?」

「ローサ様、それは…。」

「チャベスト、あなたも責任は免れないわ。

何も気づかなかったとでも言うの?

侍女達はわざとサラの食事を減らし、本来の務めである彼女の世話などもすべて放棄していたのよ。」

「そんなことが…。

侍女長、本当ですか?」

「…。」

沈黙は、何よりも雄弁だった。

「その上で、何食わぬ顔で給金を変わらず受け取るなんて、泥棒と同じだわ。

侍女達を一斉に全員解雇しようかしら。」

ローサ様の声には怒りと侮蔑が滲む。

「お待ちください。」

私付きの侍女であるモニカが声を上げると、立て続けに他の侍女たちも口を開く。

「マリウス様を裏切るような女に、仕える必要なんてありますか?」

「そうです。

私達はマリウス様に忠誠を誓っております。」

侍女達は次々に声を上げる。

「いいかしら?

マリウスがサラと離縁しない以上、あなた達は彼女を女主人として支える義務があるわ。

貴族の世界では、契約結婚をして、お互いに愛人がいる夫婦なんてごまんといるの。

だからと言って、それに口出しする権利はあなた達に一切ない。

サラを支えたくないという者は今すぐ出ていってもらうわ。」

「…。」

張り詰めた空気の中、ローサ様は皆に視線を向ける。

「どうするの?

侍女長、あなたの責任は重いわよ。

決断を聞かせていただけるかしら?」

「…申し訳ありません。

心を入れ替えると誓います…。

だから、解雇だけはお許しください。」

「私は辞めさせていただきます。」

「私もです。」

モニカに続いて、数名の侍女が名乗りを上げ、最終的に半数ほどが退職の意思を示した。

「そう、ならば、その者達は即刻解雇よ。

紹介状もなし。

何のお咎めもないだけ、有り難く思いなさい。」

ローサ様が冷ややかにそう告げるとモニカ達は悔しさを噛みしめるような面持ちで、静かに部屋を後にした。

「チャベスト、こういう状況だから、しばらく私の邸の侍女達を貸し出すわ。

その間にサラに忠誠を誓う者だけ雇い入れるのよ。」

「承知いたしました。」

チャベストさんは深く頭を下げ、その言葉を強く受け止めてくれたようだった。

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